知恵は対話から生まれる
アインシュタインは、スイスのベルンという街を走っている路面電車に乗っているとき、光の速度が路面電車ぐらい遅かったら世界はどう見えるだろう、と想像しました。そのことを夢中で考えているうちに、アインシュタインは1905年に特殊相対性理論、そしてそれを発展させて、1916年に一般相対性理論という物理学の有名な理論を発表したのです。
一般相対性理論は、さまざまな物理的現象を説明する理論ですが、特に、まっすぐ進むと考えられていた光が重力によって曲がるということが人びとを驚かせました。そんなばかなことがあるものかと、誰も彼の理論を信じませんでしたが、1919年にある研究チームが、皆既(かいき)日食の際に、実際の星の位置と、その星が発する光の進路を計測した結果、地球に向かう光が太陽の近くを通過する際にわずかに曲がること、そしてその屈折の量が、相対性理論から導かれる値どおりであることが判明したのです。この驚くべきニュースは世界中を駆けめぐり、アインシュタインは一夜にして有名になりました。
そんな天才アインシュタインが相対性理論を発見した背景には、彼が2人の友だちと行っていた勉強会の存在がありました。ベルンで、毎週、仕事の後で各自の家に交代で集まって、科学的な議論を行ったのです。アインシュタインはそこで、驚くべき理論の着想を得たのです。
友人たちには、アインシュタインの考えが理解できないこともありましたが、それでも一生懸命聞いてくれました。アインシュタインも、これで完全に説明できたと感じたときでも、友人が理解できていないのを見て、自分の説に飛躍や間違いがあるのに気づくことがありました。それでさらに深く考え、理論を精緻化できたことも何度かあったようです。
考えが完全にまとまっていない段階でも、人に話すのはよいことです。話を聞いた相手が、何か意見を言ってくれれば、さらに考えを深め、正しい方向に進める助けになります。単純な質問をしてもらうだけでも、自分の考えのあいまいな点や見落としに気づくのに役立ちます。