PEACE STORIES

だれもいなくても見ている人がいる

インドの偉いお坊さまが、自分はずいぶん年をとったので、あとわずかしか弟子たちに教えることができないと思い、弟子たちにこう言った。

「私はもうすぐ人に教えることも、托鉢(信者の家をめぐって生活に必要な最低限の食べものなどをもらう修業)もできなくなる。生きていくためには、お金を貯めなくてはならない。だからおまえたちは、大勢の人がいるにぎやかな通りに出て行き、だれも見ていないときに商人や通行人のお金を盗んで、ここに持ってきなさい」

弟子たちは、お金を盗んできなさいと言われて驚いたが、偉大な師に疑問をぶつけることはできず、全員が言いつけどおり、街に出かけて行った。

ところが、一人だけその場から動こうとしない少年僧がいた。師はその少年にたずねた。

「なぜ、おまえは私の言いつけどおりにしないのか?」

少年は答えた。「先生は、だれも見ていないときにお金を盗ってきなさいと言いました。でも、そんなことはできません。私自身が、いつも私がすることを見ているのですから」

師は言った。「私の教えを正しく理解したのはおまえだけだ。私がいなくなったら、私に代わって人びとに教えなさい」

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