兄の秘密・弟の秘密
兄と弟がいました。二人は両親から農場を相続しました。彼らは農場を共同で経営することに決め、いっしょに作物を育て、収穫を平等に分け合うことにしました。
ある晩、ふと目をさました兄は、こう考えました。
「ぼくは独り身で身軽だけど、弟には妻と5人の子どもがいる。弟のほうがぼくよりずっと物入りに違いない」
兄は起き上がり、自分の納屋にあった穀物の袋を、だまって弟の納屋に運びこみ、安心して眠りにつきました。
次の晩、ふと目をさました弟は、こう考えました。
「ぼくには妻がいて、5人の子どももいる。歳をとっても子どもたちが面倒を見てくれるだろう。でも、兄さんは独身で、世話をしてくれる人がいない。老後のためにお金が必要に違いない」
弟は起き上がり、自分の納屋にあった穀物の袋を、だまって兄の納屋に運びこみ、安心して眠りにつきました。
そんなことが何年も続いたある晩のことです。
兄と弟は同時に目を覚ましました。それぞれ自分の納屋にある穀物を相手の納屋に運び込もうとして、月明かりの下でばったり出くわしたのでした。兄も弟も、長いあいだ、おたがいに穀物を相手の納屋に運びこんでいたことがわかって驚きました。二人はお互いの思いやりを知って、涙を流しながら抱き合いました。