PEACE STORIES

核爆弾と肉切りナイフ

現代の戦争では、攻撃命令を下す人が犠牲者の顔を見ることはありません。

アメリカが核兵器を使用するときは、12桁のコードを打ち込んでミサイルの発射制御装置を解除しなくてはなりませんが、その命令を下すのは大統領です。そのため、大統領がどこに行くときも、解除に必要な書類の入ったカバンを持った担当者がついて行くことになっています。

あるときロジャー・フィッシャーという人が、書類はカバンに入れて持ち歩くのではなく、小さなカプセルに入れて志願者の心臓の近くに埋め込むことにしたらどうかと提案しました。その志願者はカバンも持ちますが、そこには肉切りナイフを入れておくという提案です。

大統領が核ミサイルを発射すると決めたら、まず肉切りナイフを手に取り、部下の体に埋め込まれたカプセルを取り出さなくてはなりません。部下を殺さなければ核ミサイルを発射できないのですから、自分の命令で顔も知らない大勢の人が死ぬことの意味を少しは感じることができるでしょう。

ペンタゴン(アメリカ国防省)でフィッシャーがこの提案をしたとき、血なまぐさい光景を想像した出席者は口をそろえて反対しました。
「なんてひどい考えだ。そんなことをしたら大統領が判断を誤るかもしれないじゃないか」

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