大きい犬と小さい犬(政府とNGO)
その男の家は物騒な場所にあって、母屋から離れたところにある倉庫は、毎晩のように泥棒に押し入られました。がまんできなくなった男は、たくさんの犬を売っているペットショップに行き、「いちばん大きくて強い犬が欲しい」と言いました。そして、店主が見せてくれたいちばん大きい犬を買って、家につれて帰りました。
男は強そうな犬が気に入り、この犬なら、泥棒が押し入っても追い払ってくれるだろうと思いました。
ところが、その犬を連れて帰った次の日の晩に、また泥棒がやって来て、倉庫の扉をこじ開けて中の物を盗んでいったのです。犬はぐっすり眠っていて、泥棒に気づかなかったようです。
男はカンカンに腹を立てました。犬をペットショップに連れて行き、「この犬、ぜんぜん役に立たないじゃないか。泥棒が入ってきたのに、眠りこけて気づきもしなかったぞ。要らないから引き取ってくれ」
店主は、「泥棒よけの犬が欲しかったんですか? それならそうと言ってくださいよ。それなら小さい犬が要ります。ちょっとした物音や気配で目を覚まして、大きな声で吠えてくれますからね」と言いました。「でも、小さいのだけでもダメでよす。泥棒のほうが怖がりませんから。そこに大きい犬も一緒にいれば、小さな犬の鳴き声で目をさまして、悪者を追いはらってくれるんです」
男は結局、小さい犬も買って帰り、2匹とも飼うことにしました。それ以来、男の家には二度と再び泥棒が押し入ることはありませんでした。
大きな犬は国の政府のようなものです。社会を良くするために使えるお金をたくさん持っていますが、人々が困っていても気にかけません。一方、小さな犬はNGO(非政府組織)のようなものです。お金はありませんが、困っている人がいたらすぐに気づき、何が必要かを理解して、声を上げて政府を動かすことができます。私たちの社会には大きな犬と小さな犬の両方が必要です。
(これはスリランカのサルボダヤ運動の創始者であるA.T.アリヤラトネ博士が教えてくれた話です。サルボダヤ運動というのは、世界から飢餓・病気・無知・争いをなくすことをめざす社会活動、つまりNGOです。)