PEACE STORIES

小さな親切の大きな力

アルは中学生です。学校の授業が終わって、家に帰る道を歩いていました。ところが、前を歩いている生徒が突然つまずいて転び、腕に抱えていたたくさんの教科書や学用品を道に落としてしまったのです。アルは急いでかけ寄って、あたりに散らばった物を拾い集めるのを手伝ってあげました。

2人の家は学校から同じ方向にあったので、アルはその子の持ち物を半分持ってあげました。歩きながら少しずつ話しているうちに、その子の名前はベンだとわかりました。野球とビデオゲームが好きなこともわかりました。学校の勉強では歴史は得意だけど、それ以外は苦手なこともわかりました。好きな女の子にフラれて落ち込んでいるということも、ベンは話してくれました。

2人が最初に着いたのはベンの家でした。ベンはアルに、中に入って遊んで行かないかと誘いました。2人はゲームで遊びながら話をし、一時間ほどいっしょにすごしました。

次の日から、2人は学校でもよくいっしょにすごすようになりました。お互いの家をたずねて遊んでいるうちに、すっかり仲よしになりました。

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6年後、高校を卒業するときがやってきました。これまでは同じ学校でしたが、大学は違う学校に進むことになったので、これからは遠く離れて暮らすことになります。高校の卒業式が終わったとき、ベンがアルに話しかけました。

「はじめて会った日、ぼくがどうしてあんなにたくさんの物を運んでいたか知ってる? 学校のロッカーを空っぽにしたかったんだ。ぼくがいなくなった後で、掃除をする人に迷惑をかけたくなかったからね。あのころ、ぼくは母さんが飲んでいた睡眠薬を少しずつためていて、いっぺんに飲んで死ぬつもりだったんだ。でも、きみと話したり笑ったりしているうちに、死んでしまったら、こんな楽しいこともなくなってしまうと思ったんだ。落とした物をひろうのを手伝ってくれたとき、きみは本を拾い上げてくれただけじゃなく、ぼくの命も救ってくれたんだ」

何かをするとき、その行動の力を、取るに足らないことだと思わないようにしましょう。ちょっとした行動や言葉が、相手の人の人生を変えることさえあるのです――良いほうにも悪いほうにも。